top of page

 競艇の予想紙を作る会社で、記者を目指して働いていました。記者とは◎(本命)○(対抗)X(大穴)△(注意)の印をつける仕事です。ちなみに、関東と関西ではXと△が逆です。

 会社の先輩記者はみんな根っからの競艇好きでした。覇気がなくて荒んだ空気を醸し出す短気な人がたくさんいました。一番古株のおじさんは、小指の爪だけ伸びていて、冬場はペーズリーが歪んだような模様のセーターを着ていました。遅刻すると「気を失って動転したので」と言い、休憩室の壁に向かっていつも一人でご飯を食べて、記事の校正は誤字が100個あっても気づかないのに、自分の予想的中率が違うと真っ先に気付きました。レースの話をするときはいつも笑顔で、2カ月に1回は大穴の万舟券を叩き出す、そんな人でした。

 富田ヨシキ58歳、独身。顔が腹話術の人形と似ていますが、前歯は1本欠けています。

4−1
bottom of page